2013年01月31日

「新美術館 戸惑いと期待:大阪市、中之島に建設へ」

昨日の日経新聞夕刊に、標記の記事が載りました。

大阪市が北区中之島に新美術館を建設するのに伴い、閉鎖する方針を固めた市立美術館(天王寺区)。

とありますので、今のところ、大阪市立美術館さんを閉館する方針は強いのでしょう。いつも批判?していますが、何でも新しくピカピカなものが好きな、少なからぬ大阪人にとって、「築後77年が経過して老朽化が問題となっている(同記事)」大阪市美さんは、魅力のない存在なのでしょうか。

同記事において;
96年から2001年まで同館長を務め、フェルメール展や円山応挙展などで入館者数を飛躍的に伸ばした蓑豊・兵庫県立美術館長は「閉館方針は大きな衝撃。美術界への影響は甚大だ」と憤りを隠さない。「元来、住友家から美術館を開くため敷地を寄付されたはず。一方的な廃止は非常識で、寄託品の返還を求められてもおかしくない」と強調する。

とあります。一般の方はご存じないでしょうが、国立博物館など日本の歴史ある博物館や美術館では、その館蔵品に占める「寄託品(預かり品)」の割合はきわめて高いのです。

大阪市美さんの場合、「70年の歴史の中で約8000点の所蔵品と、7000点にのぼる社寺やコレクターなどからの寄託品を収蔵する(同館HPより)」とあります。

つまり、博物館や美術館は自らの館蔵品のみならず、地域の文化財、美術品を保存、公開する機能も備えています。

これは長年の社寺などの信頼の上に成り立つ「協力」関係があってのものであり、ハード、ソフトとも所蔵する環境が激変する場合、蓑さんが指摘するとおり、「寄託品の返還を求められてもおかしくない」のです。

もちろん、美術館の機能はそれだけではありません。近年、美術館は観光拠点としての機能が重視されており、そうした短期経済的な視点から、「閉館、統合して中之島に新美術館」という方針が出てくることは十分理解できます。

しかし、昨日も書いたとおり、美術品、文化財の保護という歴史的な視点からは、地質、地形から見て、中州・人工島である中之島より、上町台地上の茶臼山のほうが、圧倒的に安全です。

近代の防災や建築技術を信頼して、中之島には多くの公共施設が建てられてきました。しかし、東日本大震災を経験した後、あえて中之島にそうした施設を建築することは、はたしてどうなのでしょうか。

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2013年01月30日

大阪市:天王寺の美術館廃止を検討…「中之島」に統合

大阪市:天王寺の美術館廃止を検討…「中之島」に統合
毎日新聞 2013年01月29日 14時06分(最終更新 01月29日 14時06分)

大阪市の橋下徹市長は29日、老朽化した市立美術館(同市天王寺区)を廃止し、北区中之島地区に建設予定の市立近代美術館に統合して整備を検討するよう、担当部局に指示したことを明らかにした。市は13年度予算案に調査費などを計上する方針で、近く幹部会議で方針を決定する。
市立美術館は天王寺公園内にあり、旧財閥・住友家から庭園と共に寄贈された土地を活用し、1936年に開館した。建物は地上2階、地下2階の鉄筋コンクリート造り。築後77年が経過して老朽化が問題になっている。
同美術館は、日本美術・東洋美術を中心に約8000点を収蔵、特に中国の石仏コレクションは国内随一とされ、11年には約57万人が来館した集客施設だ。重厚な外観は公園のランドマーク的存在として親しまれている。廃館後の建物や土地の利用計画も大きな課題になる。
近代美術館は、市が98年に基本計画を策定。用地約1.6ヘクタールを国から約160億円で購入し、モディリアーニの絵画「髪をほどいた横たわる裸婦」など近現代の約4500点をそろえる。建物は当初計画を縮小し、122億円で整備する予定だった。しかし、橋下市長が11年12月、「しょぼい美術館なんかできても大阪の力は高まらない」と見直しを指示。今年3月までに建設を決めなければ、用地購入時の取り決めに基づき国に約48億円の違約金を支払わなければならないため、計画策定が急務となっている。
橋下市長は、この日記者団に「中之島と天王寺に二つを併存させるわけにはいかない。違約金の問題があるので、やるのかやらないのか一定の方向性を出さないといけない。(部局に)選択肢を作ってもらう」と話した。
美術館を巡っては、大阪府・市の観光戦略を考える「都市魅力戦略会議」(座長=橋爪紳也・大阪府立大教授)が昨年6月、巨大な美術館の屋上に8〜10の小型美術館やコンサートホールを配置する「中之島ミュージアムアイランド構想」を発表。橋下市長は府立中之島図書館の美術館への転用案を、松井一郎知事は府の本庁舎の転用案を示しており、複数の構想が乱立している。【林由紀子】

以前より何度か書いてきた、大阪市立近代美術館をめぐる問題です。橋下さんは用地の違約金の問題は別に考える、としてきたのですが、政権交代もあり、あわてて計画策定となったのでしょうか。

私が主張してきたとおり、大阪市立美術館さんと近代美術館を統合する、という考え方はよいと思います。しかし、それを中之島に建設する、というのはいくつかの大きな問題があります。

メリットとしては、ミュージアム・アイランド構想、すなわちミュージアムのリソースを一箇所に集中させることによって、六本木のように大きな集客効果が見込めることです。

デメリットとしては、まず中之島地区が、そもそもミュージアム建設に適さない土地であること。今後の震災などに対して、わざわざリスクの高い土地に建設することは疑問です。

さらに、歴史ある大阪市立美術館さんを閉館することは、天王寺地区に大きなマイナスとなること。

既存の大阪市美さんを超える施設の新設のため、コストも膨大になるでしょう。

個人的には、現在の用地は他の文化施設に利用し、現在の大阪市立美術館さんに隣接するように、近代美術館を建設するのがよいと考えます。小高い茶臼山は災害に強く、万が一の場合、避難所などにも活用できます。

しかし、この場合、中之島地区と天王寺地区の二つにミュージアムのリソースが分かれてしまいます。

中之島:国立国際美術館・大阪市立東洋陶磁美術館・大阪市立科学館

天王寺:大阪市立美術館+近代美術館・あべのハルカス美術館・天王寺動物園

ベストな解決法はなかなか見つかりません。担当部局さんには専門家も多数おられるでしょうから、しっかりと検討していただくことを期待します。

posted by baikado at 10:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 博物館・美術館

2013年01月27日

妻木良三「幻標」展オープン

昨日、妻木展が無事オープンしました。お忙しい中、また寒い中ご来堂いただきました多くのみなさまに、妻木君ともども御礼申し上げます。差し入れなどもありがとうございました。

今回は点数、サイズともそれほどのヴォリュームはないのですが、梅香堂の浪板の内装に合った、シャープで緊張感のある展示になりました。

お客さんの反応も上々です。とくに昨日は、妻木君の絵画を知っているお客さんが多かったため、「写真」という意外性に興味津々であったようです。

今回の写真は、妻木君の絵画との連関性をスムーズに理解できるものであり、いわば絵画の延長線上にあると考えられます。

しかし、別に彼の絵画を知らなくても、十分自立した写真として楽しむことができます。

ぜひご来堂いただき、妻木君の世界をじっくり味わって下さい。お待ちしております。

posted by baikado at 15:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 梅香堂

2013年01月25日

妻木展準備(明日オープン)

いよいよ妻木展は明日オープンとなりました。

先ほど妻木君が前日入り。数点作品の移動を行いました。より見え方がすっきりしたようです。計19点展示予定です。

妻木君と少し話したのですが、こうして初めての写真展を開催することになると、当然、これから妻木君にとっての「写真」というものは変わってきます。

今まで誰に見せるつもりでもなく、おもむくままに写真を撮っていた彼も、これからは「見せる」ことを意識するでしょう。

それが彼の写真にとってよい影響を与えるのか、与えないのか。

今回の妻木君の写真に顕れた、あるいは顕れるであろう「幻標」は、まさにバルトの言う「プンクトゥム」のようなものかも知れません。それはいわば作品化を前提とした写真に可能なものなのか・・・。

いずれにせよ、今回の写真展へのお客さんの反応は、今まで妻木君の展覧会とは異なったものとなるでしょう。

明日、17:00よりオープニング・パーティを行います。ぜひ、ご来堂いただき、忌憚のないご意見、ご感想をいただければ幸いです。

posted by baikado at 23:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 梅香堂

2013年01月23日

妻木展準備(三)

昨日、今日と、妻木君が友人さんと来堂。展示作業を行いました。

今日、展示の手伝いに来てくれた妻木君の後輩?さんから、「どうして妻木君の写真展を?」と尋ねられました。「よいと思ったから」と答えたところ、妻木君が、私は妻木君の絵より写真のほうが好きだから、と重ねました。

さらに私は、今回の妻木君の写真は、「作品」として撮られたものではないところがよい、と加えました。

絵画は確かにすばらしい。

絵画に比べて、写真はどうあがいても「薄っぺらい」存在です。しかし、その希薄さ、ある種の「はかなさ」こそが写真の本質だと思います。

つまり、バルト的?にいえば、その非─芸術性が、私にとって魅力的なのです。

展示もほぼ終わりました。少し作品を寝かしてから、最終チェックをするのでしょう。

妻木君、展示を手伝ってくれたみなさん、お疲れさまでした・・・ありがとう。

posted by baikado at 23:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 梅香堂