2013年12月17日

「定窯・優雅なる白の世界―窯址発掘成果展」@東洋陶磁美術館

ひさしぶりに中之島の大阪市立東洋陶磁美術館さんへ。

大阪駅の地下で迷います。もう四年も住んでいるのに・・・世界一アクセスの悪い駅であることを再認識。

定窯(ていよう)・優雅なる白の世界―窯址発掘成果展」は、近年の出土品によるもの。完形品はなく、出品点数も少ないので、どこか地味な印象ですが、伝世品にはない初々しさがすばらしい。

窯址の発掘成果なので、作陶にあたってのさまざまな器具(部材)も展示されており、きわめて興味深いものでした。

東洋陶磁さんは「美術館」であるため、仕方ないのかもしれませんが、もっと定窯に関する最新の考古学的な知見や、科学的な分析結果を展示してほしい。

あの白磁の胎土はどこの、どのようなものなのか、釉薬は・・・などなど、興味は尽きません。

陶磁器は美術品であることはもちろん、常にその時代の最新テクノロジーでした。同時開催の「人間国宝 塚本快示―定窯白磁の美を追い求めて」を見ると、千年以上前の白磁をコピーすることの難しさがありありとわかります。

また、黒釉の碗もすばらしかった。平常展も併せてぜひ。3/23まで。

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2013年11月28日

「渋沢敬三記念事業 屋根裏部屋の博物館 Attic Museum」@国立民族学博物館

先日、万博記念公園へ。民博さんの「渋沢敬三記念事業 屋根裏部屋の博物館 Attic Museum」展です。

渋沢敬三は、言わずと知れた渋沢栄一の孫。幼いころ生物学者になりたかったとははじめて知りました。本展は、敬三が私財を投じてコレクションした民俗資料、設立した民族学博物館や研究成果などを紹介するものです。

ダルマさんなど玩具からはじまったそのコレクションは、約28,000件におよび、国に寄贈され、民博さんに移管されました。本展ではその代表的な資料が展示されているのですが、興味深かったのは着物のコレクション。いわゆるきれいな晴れ着だけではなく、労働着など普段着が多くあり、戦前の資料として貴重だと感じました。

戦前までは、こうした民俗資料を博物館が対象とすることはほとんどなく、いわゆる美術品や歴史資料しかコレクションされていません。

たとえば大原孫三郎もそうですが、敬三のような戦前の資産家の多くは、慈善事業と言ってしまえばそれまでなのですが、文化活動に私財を投じることに使命感を持っていた。戦後、そうした流れが断ち切られたことにはさまざまな理由がありますが、いつもさみしく感じます。

ところで、今回も展示デザインはすばらしかったのですが、民博さんの特別展示館は設計が古いのか、予算をケチったのか、ぱっとしません。内装が安っぽく、空調機の風で「オシラサマ」の布が揺れていたり、床のトレンチがガタついていたり、気になるところが多い。本館に比べ大きく見劣りします。

日本を代表する博物館ですので、近い将来に刷新されることを期待します。

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2013年11月14日

「再発見!大阪の至宝」@大阪市立美術館

先日、ちょっと時間ができたので、天王寺へ。大阪市立美術館さんの「再発見!大阪の至宝 コレクターたちが愛したたからもの」です。

大阪市美さんをはじめ、大阪市の博物館・美術館さんのコレクションの中核を占めるおもに個人コレクターさんたちが寄贈した作品や資料が展示されています。ほとんどがすでに見た名品ばかりでしたが、こうして「〜コレクション」とセクション別けされているのを見ると、それぞれのコレクターさんの個性が見えてくるようで興味深い。

会場で思ったのは、ここにある作品のほとんどは、いわゆる「展覧会」のようなかたちで、広く人の眼にふれることを考えて作られていないこと。当たり前ですが、日本の場合、作者が広く一般の眼を意識して作品を制作しはじめたのは、江戸期の大衆芸術を除けば明治以降です。

「展覧会」や「展示会」が支配的な発表のスタイルになったのは、戦後以降といってもよい。ほとんどの作家が「展覧会」を意識してはいなかった。彼らが意識したのは、いわゆるパトロンやコレクターであって、不特定多数ではない。

それが表現などに与えた影響は、いろんな先学が指摘していますが、私が今回直感的に思ったのは、「作品が恥ずかしそう」に見えたことです。ピカピカの展示ケースに収められ、四方八方からながめられている姿は、どこか所在無さげでした。

長い間、個人コレクションであった作品には、そうしたことを感じさせる「何か」があるのかも知れません。

とにかく、これだけの個人コレクションによって成立している公立美術館さんは、ほかの自治体には少ない。ぜひ足を運んでみて下さい。12/8まで。

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2013年10月21日

「映画をめぐる美術―マルセル・ブロータースから始める」@京都国立近代美術館

タイトルからちょっと難解なイメージのあった展覧会ですが、図らずもエレベータを利用したため、展示順路の出口から見たことにより、この展覧会がすんなりと理解できた気がします。

本展は、「マルセル・ブロータースから始める」としつつ、本当は「映画と美術」という壮大なテーマを扱う野心的なものであり、そのテーマが拡散してしまうことを避ける─言い方は悪いですが、恣意的に切り取ったことのいわば「言い訳─担保」として、ブロータースがその筆頭にあるのではないでしょうか。

展覧会は、「Still / Moving」「音声と字幕」「アーカイヴ」「参照・引用」「映画のある場」の五つのサブテーマで構成されているらしいのですが、これは考えてみればどのような作品にも当てはめられそうなテーマです。

こうしたテーマ展の成り立ちには、テーマから演繹的に作家や作品を選ぶ場合と、作家や作品からテーマを導く帰納的な場合があります。本展は一見演繹的に見えながら、実はブロータスだけではなく、すべての作品からはじまる帰納的な展覧会─同時多発的な物語といえるかも知れません。

ひさびさの京近美さんらしい?マニアックな展覧会としておすすめします。欲をいえば、映画と美術を切り分けるものについて、もう少し掘り下げて欲しかった・・・10/27まで。

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2013年05月09日

「アートのトリセツ:取扱説明書 コレクション」

アートのトリセツ:取扱説明書 コレクション
毎日新聞 2013年05月08日 大阪夕刊

「このピカソは本物ですか?」。大阪府吹田市にあった国立国際美術館が04年、大阪市・中之島に移転して間もない頃、常設展でこう尋ねる来館者が相次いだという。「大阪の美術館がピカソ作品を持っているなんて」という驚きだろう。館の所蔵品=コレクションの存在が一般に知られていないことを端的に示している。

美術館の役割は主に、美術作品の収集、展示、保存、研究の四つ。作品との出会いの場を提供すると同時に、作品を集めて保存し、未来に伝える社会的な役割を担っている。

収集方法は、購入と寄贈に大別される。1980年代後半から90年代前半、国内の公立美術館は競うように、1億円を超える作品を購入していた。バブル崩壊後は一転、厳しい財政状況となり、「購入予算ゼロ」の施設がほとんどだ。それでも、所蔵家らの寄贈を受け入れ、コレクションの拡充に努めている。

各館の収集活動は、「日本美術院を中心とした近代日本画」「関西ゆかりの美術・工芸」など独自の方針に従って進められる。コレクションの数々は常設展で公開され、美術館の「顔」となっている。

そんな個性豊かな関西の6国公立美術館のコレクションに光を当てた展覧会「美の響演 関西コレクションズ」が、国立国際美術館で開かれている。同館のほか、大阪新美術館建設準備室▽滋賀県立近代美術館▽兵庫県立美術館▽和歌山県立近代美術館▽京都国立近代美術館−−の所蔵作品から約80点。国立国際美術館の安来(やすぎ)正博・主任研究員は「各美術館のコレクションは地域の財産。そのことを地元の人に再認識してもらえたら」と語る。

絵画や彫刻、写真など主に20世紀以降の欧米美術作品を、時代の流れに沿って展示する。ピカソ、カンディンスキー、ジャコメッティ、ウォーホルなど著名な作家がずらり。「展覧会名が示す通り、名品の共演が楽しめます」と安来さん。

作家、村上春樹の新著『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』の表紙にも使われたモーリス・ルイスの作品が3館から出品される。別々の場所にあった同じ作家の作品を見比べられるのも見どころだ。

7月15日まで。一般1200円。国立国際美術館(06・6447・4680)。【清水有香】

先日も同展についてふれましたが、いわゆる「名品」中心なので、各館のコレクションの個性まで伺えるかといえば、ちょっと難しいかも知れません。

それよりも明らかなのは、1990年代以降の現代美術作品のコレクションが、ほとんど国際美さんのものであること。

これは同館のみが、購入予算を維持していることの結果に他なりません。

逆に言えば、他館さんの現代美術コレクションは、1990年代以降「止まっている」ことになります。

記事にもありますが、各美術館さんは、もっと積極的に寄贈を受け入れてもよいのではないでしょうか。とくに、直接作家さんから。

ただ、お役所というのは不思議なもので、「寄贈で何とかなるのなら、もう購入予算はいらないだろう」みたいな考え方をする場合もあります。「若手作家の作品はみな寄贈で」にもなりかねない。

また学芸員さんは「いらないお荷物(作品)まで付いてくる」?などの理由で、現役作家の寄贈に消極的な場合もある。

ところで、あまり知られていませんが、関西には「美術館にアートを送る会」という組織があります。

こちらは「美術館にアートを贈る会では、アートの好きな私たちが美術作品を選定し、その作品の所蔵者としてふさわしい美術館を見つけ皆で寄贈する、市民と美術館の新しい関係の構築を目指しています」という趣旨で設立されたもので、寄付金などにより運営されています。

過去三回、関西の美術館に作品を寄贈しており、現在は第四弾のプロジェクトが進行中だそう。

総じて欧米の美術館は、企業や個人の名コレクションの受け入れにしのぎを削っていますが、日本の美術館はまだまだ・・・という感はぬぐえません。

posted by baikado at 10:46| Comment(0) | 博物館・美術館